天台宗の特徴は? 葬儀の流れ、マナー・費用などを解説
天台宗の葬儀は、故人が仏の弟子として仏縁を結び、読経や回向を通して成仏を願う厳粛な儀式です。
その根底には、「すべての人が仏になれる」と説く法華一乗の教えがあり、自らを省みて他者に尽くす「忘己利他(もうこりた)」の心を重んじます。
天台宗は平安時代初期、伝教大師・最澄が中国天台の教えを日本に伝えたことに始まりました。
「円(法華)・密(密教)・禅(坐禅)・戒(戒律)・念(念仏)」を融合した教えを基礎とし、日本仏教の母体ともいわれる比叡山延暦寺を中心に広がりました。
そのため、葬儀の形式や読まれる経典、儀式の進め方には地域や寺院による違いが見られます。
この記事では、天台宗の葬儀の流れや特徴、喪主としての準備、参列時のマナー、そして費用の目安までをわかりやすく整理します。
葬儀を執り行う際は、あくまで菩提寺や僧侶、葬儀社の方針を優先しつつ、天台宗の教えに基づいた葬送の形を理解しておくことが大切です。

天台宗とは
天台宗は、平安時代初期に伝教大師・最澄(さいちょう)が開いた仏教の宗派です。
最澄は唐(中国)に渡って天台教学を学び、その教えをもとに日本で新たな仏教体系を築きました。
天台宗の根本には「すべての人が仏になれる」という法華一乗の思想があり、人の生まれや身分にかかわらず成仏できると説きます。
法華一乗を中心とした総合仏教
天台宗の大きな特徴は、さまざまな教えを総合した「円・密・禅・戒・念」の実践にあります。
「円(法華)」は法華経の教えを中心に、すべての人の救いを説くものです。
「密」は密教の教えを取り入れ、加持祈祷など象徴的な実践を行います。
「禅」は心を静めて真理を観じる坐禅、「戒」は戒律を守り規律正しく生きること、そして「念」は阿弥陀仏を念じる念仏を指します。
これらの要素が一体となり、理論と修行の両面を重視する「総合仏教」として発展しました。
第三代座主の慈覚大師・円仁(じかく)によって念仏の教えが取り入れられたことで、天台宗はより幅広い信仰実践の場を広げていきました。
最澄の思想と「忘己利他」のこころ
最澄の教えは、単なる宗教的救済を超え、社会を照らす生き方を示しています。
人は皆、仏になる可能性を持っており、授戒によって仏弟子となり、仏とともに生きることで内なる光を育むことができる。
自らの光が周囲を照らし、その光が人々の善意と交わることで、やがて社会全体が明るくなる――これが「忘己利他(もうこりた)」という考え方です。
自分を忘れて他者のために尽くす生き方が、天台宗の理想とされています。
比叡山延暦寺と日本仏教への影響
天台宗の総本山・比叡山延暦寺は、日本仏教史の中心的な存在です。
「日本仏教の母山」とも称され、後の多くの宗派の祖師たちがここで学びました。
たとえば、浄土宗の法然上人、浄土真宗の親鸞聖人、臨済宗の栄西禅師、曹洞宗の道元禅師、日蓮宗の日蓮聖人などがその代表です。
彼らはいずれも比叡山で修行し、そこから独自の教えを打ち立てました。
つまり、天台宗は日本の主要仏教宗派の源流として、思想的にも人的にも大きな影響を及ぼしたといえます。
現代の天台宗とその広がり
現在、天台宗は比叡山延暦寺を中心とする本宗のほか、園城寺(三井寺)を本山とする天台寺門宗、西教寺を本山とする天台真盛宗などの系統があります。
いずれも基本教義は共通しながらも、儀礼や行事に違いがあります。
また、天台宗の寺院は国内だけでなく、ハワイや北米、西インドなど海外にも広がっており、国や地域を超えて多くの信仰を集めています。
このように天台宗は、伝統的な教義を守りながらも、現代社会の中で柔軟に広がりを見せている宗派といえます。
天台宗の葬儀の主な特徴
天台宗の葬儀は、授戒によって故人が仏弟子としての縁を結び、戒名が授けられる点に特色があります。
法華一乗の「すべての人が仏になれる」という教えを背景に、遺族や参列者が慈しみと尊厳の心で故人の成仏を祈る儀礼として営まれます。
ここでは、顕教と密教を併せた構成、炬火(たいまつ)を象徴する下炬(あこ)の作法、そして光明真言の読誦という三つの要点を取り上げます。
なお、具体的な次第や所作は寺院・地域によって異なるため、当日の進行は司式僧侶の指示を最優先にしてください。
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顕教と密教の教えを併せた構成
天台宗の葬儀は、顕教と密教の双方を取り入れて進みます。
大枠としては、法華経を読誦して自利利他の実践を願う「顕教法要」、阿弥陀経を読み上げて極楽往生を祈る「例時作法」、阿弥陀如来の来迎を願い仏の境地へ導く「密教法要」という三段階で構成されるのが一般的です。
理論と実践を統合する天台宗の宗風が儀礼にも反映されており、段階ごとに祈りの焦点が変化します。
一方で、読まれる経典や順序、唱和の仕方には地域差があるため、式次第に従って行動するのが適切です。
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炬火を象徴する下炬(あこ)の作法
導師が炬火をかたどった法具を手に、空中に梵字「阿(ア)」を示し、その周囲を円相で囲む所作が行われることがあります。
これは「下炬」と呼ばれる象徴的な作法で、闇を照らす光によって故人を仏の道へ導くという意味合いを持ちます。
夜間に営まれた葬儀の名残としての側面もありますが、現在では精神的象徴としての位置づけが強く、故人の徳や仏縁を讃える趣旨も込められます。
読みや所作の細部は寺院ごとに違いが見られるため、現場の指示を優先してください。
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光明真言を唱える
天台宗の葬送では、光明真言を唱える場面が設けられることがあります。
光明真言は、煩悩や業障を除き智慧と安らぎを得ることを願う真言とされ、故人だけでなく唱える者自身の心も整えると理解されています。
代表的な唱え方としては「オン アボキャ(アボキヤ) ビロシャナ マカボダラ マニハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン」といった転写が知られますが、悉曇音の転写は流儀によって差があります。
実際には、寺院で示される唱え方に合わせるのがもっとも確実です。
天台宗の葬儀の流れ
天台宗の葬儀は、故人を仏の道へ導くための授戒(じゅかい)が行われ、戒名(かいみょう)が授けられるところに大きな特徴があります。
葬儀式は「顕教法要(けんぎょうほうよう)」「例時作法(れいじさほう)」「密教法要(みっきょうほうよう)」の三つの儀式で構成されます。
それぞれ、法華経・阿弥陀経・密教法を通して故人の悟りと往生を祈る内容です。
天台宗(比叡山延暦寺)・天台寺門宗(園城寺)・天台真盛宗(西教寺)など宗派によって、また地域や寺院によっても儀礼の形式や言葉に違いがあります。
そのため、葬儀を執り行う際は僧侶の指示に従うことが大切です。
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通夜
葬儀に先立ち通夜が行われます。臨終後できるだけ早く枕経(まくらぎょう)が勤められ、古くは「臨終行儀(りんじゅうぎょうぎ)」という儀式もありましたが、現代では行われないことが多くなっています。
枕経は例時作法の一つとして阿弥陀経を読誦し、故人が安らかに浄土へ向かうよう祈ります。
通夜や入棺の際には、故人が仏弟子としての縁を結ぶ授戒式を行うのが一般的です。
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葬儀式の流れ
天台宗の教えでは、すべての人に仏性(ぶっしょう)が備わっており、誰もが成仏できると説かれています。
そのため、葬儀は「仏と縁を結ぶ」ための重要な儀礼とされます。
式の冒頭では仏弟子となるための授戒が行われ、続いて仏の弟子としてこの世(娑婆)を離れ、浄土へと導かれるための一連の作法が進められます。
- 入式場:遺族・会葬者が着席し、式衆(僧侶)が入場します。
- 導師登盤(どうしとうばん):導師が入場し、式衆は平座して葬儀の開始を待ちます。
- 法則(ほっそく):導師が葬儀の趣旨を述べ、式の始まりを告げます。
- 光明供修法(こうみょうくしゅほう):阿弥陀如来の導きによって故人を引導し、仏と成らしめる密教作法を行います。
- 鎖龕(さがん)・起龕(きがん):棺の蓋を閉じて起こす所作を行い、故人を悟りの準備段階へ導きます。
- 奠湯(てんとう)・奠茶(てんちゃ):茶や湯を供え、香を焚き、故人が悟りの世界へ進むためのはなむけとします。
- 歎徳(たんどく):故人の生前の功績や徳を讃える歎徳文(たんとくもん)を奉読します。
- 引導(いんどう)・下炬(あこ):導師が炬火(たいまつ)を表す法具を持ち、空中に梵字「阿(ア)」を描いて円を結び、故人の成仏を象徴する下炬文を唱えます。
- 弔辞・弔電:弔辞や弔電が読み上げられます。
- 法施(ほっせ):自我偈・十方念仏・後唄などの経文を回向し、読経中に遺族や会葬者が順に焼香します。
- 念仏・光明真言:「オン アボキヤ(アボキャ) ビロシャナ マカボダラ マニハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン」と唱えます。
- 総回向(そうえこう):「願以此功徳 普及於一切 我等與衆生 皆共成仏道」の偈文を唱えます。
- 退出式場:導師・僧侶が退場します。
- 出棺:葬儀の終わりとして、棺が式場を後にします。
このように、天台宗の葬儀は故人を仏の道へ導くために段階的に進められるのが特徴です。
読経や所作の意味を理解し、静かに手を合わせることが供養の心につながります。
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【喪主・遺族向け】天台宗の葬儀を進めるためにすること
天台宗の信仰を持つ故人を見送る際は、喪主や遺族が同じ宗派でなくても、故人の信仰に沿った形で葬儀を進めることが大切です。
段取りを整えるうえでは、宗派の作法に加えて手配・連絡の優先順位を把握しておくと安心です。
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菩提寺があるかどうかを確認する
まず、故人に菩提寺(先祖代々の墓を持つ寺院)があるかを確認します。天台宗の檀信徒は、菩提寺を通じて葬儀・法要を行うのが基本で、戒名の授与や納骨の可否にも関わります。
不明な場合は家族・親族に確認し、判明したら早急に連絡します。
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状況 | まず行うこと |
---|---|
菩提寺がある | 菩提寺と葬儀社の両方に連絡し、方針を確認する |
菩提寺がない | 葬儀社へ連絡し、天台宗で営みたい旨を伝えて相談する |
【菩提寺がある場合】葬儀の手配・依頼のしかた
- 菩提寺と葬儀社に連絡する。
- 僧侶と葬儀社担当者のあいだで、日程・場所・進行を決める。
菩提寺で営む方法のほか、葬儀社の会館に菩提寺の僧侶を招いて営む形もあります。まれに菩提寺から葬儀社や式場の指定・紹介があるため、先に菩提寺へ相談するのが確実です。菩提寺へ連絡せず進めると、のちの納骨で支障が出る場合があるため注意します。
関連:葬儀社を選ぶときのポイント
【菩提寺が遠方にある場合】葬儀の手配・依頼のしかた
- 菩提寺と葬儀社に連絡する。
- 僧侶が出向けるかを相談する。
- 状況に応じて調整する。
3a:僧侶が出向ける場合…その旨を葬儀社に伝え、日程・場所・進行を詰める。
3b:出向けないが紹介可能な場合…同じ天台宗の寺院・僧侶の紹介を受け、連絡・調整する。
3c:紹介も難しい場合…葬儀社に天台宗の僧侶の手配を依頼する。
ケースによっては、戒名は菩提寺の僧侶が授与し、読経は紹介僧侶が担当する分担もあります。三者連携(菩提寺・紹介寺院/僧侶・葬儀社)で進めると円滑です。
関連:葬儀の日程の聞き方
【菩提寺がない場合】葬儀の手配・依頼のしかた
- 葬儀社に連絡し、天台宗で営みたい旨を伝える。
- 葬儀社と日程・場所・進行を相談して決める。
多くの葬儀社は宗派ごとの式次第や法具に対応していますが、内容や費用は葬儀社によって差があります。天台宗の僧侶・寺院を紹介可能か、対応実績があるかを確認すると安心です。
関連:平均相場はどれくらい?葬儀にかかる費用と内訳
天台宗の葬儀を営む場所
葬儀を行う場所は、菩提寺の有無や距離によって異なります。近年は、葬儀社の式場に僧侶を招く形式が主流です。いずれの場合も、最初に菩提寺へ連絡し、葬儀社と連携する流れがトラブル防止に有効です。
ケース | 葬儀を営む場所 |
---|---|
菩提寺がある場合 | 菩提寺または自宅/葬儀社の式場(菩提寺の僧侶に来てもらう) |
菩提寺が遠方の場合 | 菩提寺が紹介した天台宗の寺院または自宅/葬儀社の式場(紹介僧侶に来てもらう) |
菩提寺がない場合 | 葬儀社の式場(葬儀社に天台宗の僧侶を紹介してもらう) |
【喪主・遺族向け】天台宗の葬儀にかかる費用
天台宗の葬儀費用は、依頼する葬儀社や寺院の方針、規模(一般葬・家族葬・一日葬など)によって幅があります。
ここでは、費用の内訳と相場感、お布施の目安、出費を抑える工夫を整理します。
関連:家族葬にかかる費用(人数別の目安) / 一日葬の費用目安
葬儀費用の内訳と相場
葬儀全体の費用は、式場・祭壇・火葬などの基本費用、参列者対応費(食事・返礼品)、寺院関連費(お布施・御車代・御膳料)に大別されます。
総額は内容次第で大きく変動し、規模や地域差によっては200万円前後になる場合もあります。
- 式場・祭壇・火葬などの基本費用:式場利用、祭壇設営、搬送・安置、火葬場の手配など。全体の約半分を占める傾向があります。
- 参列者対応費:通夜振る舞い・精進落とし等の食事、返礼品(香典返し)など。人数・地域慣習で増減します。
- 寺院関連費:お布施(読経・戒名等への謝意)、御車代(交通費)、御膳料(食事辞退時の御礼)など。
規模を抑える(家族葬・一日葬)と参列者対応費が下がる一方で、基本費用や寺院費は一定程度必要になります。
関連:葬儀におけるお花(供花)の基礎知識 / 葬儀の食事(通夜振る舞い・精進落とし)
お布施の目安
お布施は仏道の「布施行」に由来し、読経や戒名の対価ではなく、僧侶への謝意を示すものです。
天台宗の戒名は一般に「院号+道号+戒名+位号」で構成され、位号が上がるほど包む金額の目安も高くなります。戒名の先頭に本尊(阿弥陀如来)を表す梵字が入ることもあります。
項目 | 費用の目安 |
---|---|
導師 | お布施30〜50万円/御車代・御膳料 各1〜2万円 |
式衆(脇導師) | お布施10〜20万円 × 人数/御車代・御膳料 各1〜2万円 × 人数 |
戒名 | お布施に含まれる(位号により変動) |
初七日法要 | お布施3〜5万円(葬儀当日にあわせてお渡しする場合あり) |
人数分の御車代・御膳料、遠方の場合の宿泊費なども加算されます。
関連:一日葬のお布施相場 / 家族葬と僧侶(人数・費用の考え方)
葬儀の費用を抑えるためのポイント
出費を抑えるには、事前比較と設計が重要です。次の点を検討しましょう。
- 複数の葬儀社から見積もりを取得し、含まれるサービスと追加費用の有無を比較する。
- 規模と形式を見直す(家族葬・一日葬・会食の有無・返礼品の単価や範囲)。
- 会員制度や事前相談を活用し、割引やセット化で無駄を抑える。
- 葬祭費・埋葬料などの公的給付(健康保険)や自治体の補助制度を確認・申請する。
- 香典の取り扱い方を事前に決め、返礼の方法・単価を最適化する。
- 生前の備え(葬儀保険・エンディングノート)で家族の負担を軽減する。
形式選択も費用構成に直結します。家族の希望や参列範囲とあわせて検討しましょう。
関連:お通夜なしの家族葬(流れと注意点) / 一日葬とは?(違い・費用・流れ)
【参列者向け】天台宗の葬儀におけるマナー
天台宗の葬儀に参列する際は、服装・焼香・数珠・言葉遣い・不祝儀袋の基本作法を理解しておくことが大切です。
これらは宗派を超えて共有される礼節であり、故人と遺族への敬意を形にする行為として重視されます。
関連:葬儀のマナーについて詳しく解説 / 参列(列席)の基礎知識とマナー
参列時の服装と身だしなみ
光沢のない黒の喪服を基本に、装飾は控えめで露出の少ない装いを選びます。
派手な宝飾やラメ・グリッター、強い香りは避け、落ち着いた印象に整えることが望まれます。
葬儀は故人への敬意を示す儀式であり、参列者が目立つ装いは不適切とされます。
迷った場合は「目立たない・光らない・露出しない」を基準に判断すると安心です。
関連:葬儀における服装を解説 / 女性の服装(喪服・小物)
- 男性:黒のフォーマルスーツ、白無地シャツ、光沢のない黒無地ネクタイ、黒靴・黒靴下。
- 女性:黒のワンピース/アンサンブル(光沢なし)、黒のパンプス(低〜中ヒール)、黒無地ストッキング(厚すぎない)。
- 小物:毛皮や爬虫類革など「殺生」を連想させる素材は避け、髪はまとめて清潔感を保つ。
焼香の作法
天台宗の焼香は原則として3回行います(会葬者数や進行によっては1回に省略されることがあります)。
所作は、導師・遺族への一礼、本尊への一礼、焼香、合掌拝礼という順で丁寧に進めます。
焼香は故人と仏縁を結び、敬意と追悼の心を表す行為と理解されています。
当日の案内や前の人の所作に倣い、指示に従って落ち着いて行動するとスムーズです。
関連:葬儀における焼香(回数・作法)
- 左手に数珠を持ち、焼香台へ進む。
- 導師・遺族へ一礼し、本尊にも一礼する。
- 右手の親指・人差し指・中指で抹香をつまみ、額に押しいただいてから香炉へ(通常3回)。
- 遺影に合掌拝礼し、下がって一礼してから着席する。
数珠(念珠)の作法
式中は左手に数珠を掛けて持ち、焼香時も左手に掛けたまま合掌します。
席を離れる際は椅子や机に置かず、バッグやポケットにしまうのが礼儀です。
数珠は仏具であり信仰の象徴でもあるため、原則として貸し借りは行いません。
本式数珠がなくても略式数珠で差し支えありませんが、丁寧に扱う姿勢が重視されます。
関連:葬儀における数珠(選び方・持ち方)
天台宗の本式数珠(大平天台)の特徴は、平珠主体・親玉1・主玉108・天玉4・弟子玉(片側丸10/片側平20)・露玉2・梵天房で、男性は9寸・女性は8寸が一般的です。
焼香時は親玉を上にして二重にし、房を外側に垂らすように持ちます。
言葉や表現のマナー
不吉な連想を招く言葉や重ね言葉、死を直接示す表現は避けます。
弔意は簡潔に伝え、宗教観に沿った語を選ぶと丁寧な印象になります。
天台宗では死を「天に召される」とはせず、「浄土へ往生する」と表現します。
判断に迷う場合は定型の弔意表現に留め、死因等の詮索は避けると無難です。
関連:葬儀の挨拶(弔意の伝え方・例文)
- 重ね言葉:「重ね重ね」「たびたび」「再び」「繰り返し」などは避ける。
- 縁起の悪い語:「終わる」「消える」「四(死)」「九(苦)」などは控える。
- 直接表現:「死ぬ」「死因の詮索」は避け、「ご逝去」「ご冥福」「ご安息」等を用いる。
不祝儀袋(香典)の表書き
無地で白黒の水引の不祝儀袋を用い、薄墨で「御霊前」または「御香典」と表書きします。
関西では黄白の水引を用いる地域もあり、高額の場合は双銀を選ぶこともあります。
氏名はフルネームで薄墨を用いて記し、「中袋」の住所・氏名・金額はボールペンでも差し支えありません。
金額の多寡よりも、丁寧な扱いと心遣いが重視されます。
関連:葬儀の香典(相場・表書き・渡し方) / 葬儀における持ち物
天台宗の特徴、葬儀のマナーや作法を知ろう
天台宗は、伝教大師・最澄が中国天台の教えを基に開いた宗派で、「すべての人が仏になれる」という法華一乗の思想を中心に据えます。
身分や立場にかかわらず成仏を志す道を示し、授戒と菩薩行を通じて自他の幸福に資する「忘己利他」の心を重んじます。
総本山の比叡山延暦寺は「日本仏教の母山」と称され、後世の多くの祖師に学びの場を提供し、日本仏教全体に大きな影響を与えました。
天台宗の葬儀は、故人が仏弟子として仏縁を結ぶ授戒を柱に、戒名の授与と読経・回向を通して成仏を願う厳粛な儀礼です。
法要の構成は地域や寺院で差があるものの、法華一乗を根本に、遺族・会葬者が故人と心を合わせて「仏性(慈愛)」の尊さを確かめる点が共通します。
参列の作法では、光沢のない黒の装い、静かな所作の焼香、丁寧な数珠の扱い、場にふさわしい言葉遣いが重視されます。
喪主・遺族側は、まず菩提寺の有無を確認し、寺院と葬儀社の連携体制を整えることが要になります。
費用面では、式場・祭壇・火葬などの基本費用、参列者対応費、寺院関連費の内訳を把握し、規模や形式の選択で無理のない設計を行うと安心です。
天台宗の教えに即した葬送の意味を理解しつつ、地域の慣習や寺院の方針に沿って進める姿勢が、落ち着いた見送りにつながります。
よくある質問
- 天台宗では友引に葬儀を行っても問題ありませんか。
- 問題ありません。友引は古代中国の占星術を起源とする吉凶占いの一つ「六曜(ろくよう)」の暦注(れきちゅう)であり、仏教や神道の習わしとは関係ありません。友引に葬儀を行うと、故人が友を引くなどといわれ、友引に葬儀を行わない傾向がありますが、仏教では「友引に葬儀を行ってはいけない」という教えはありません。ただし、多くの火葬場や斎場では友引を休館日にしています。友引に葬儀を行うか否かについては、家族や親族とよく話し合い、菩提寺や読経を依頼する僧侶、葬儀社に相談して決めましょう。
- 天台宗の葬儀のお布施は、どのようにお渡しすればいいですか。
- 葬儀では、お布施をそのまま僧侶に手渡しすることはマナー違反です。「袱紗(ふくさ)」か「切手盆(きってぼん:冠婚葬祭の際にご祝儀やお布施などを渡すとき使用する小さなお盆)」の上にのせて、相手から文字が見えるように渡します。その際、「本日はありがとうございました」など、僧侶へお礼を述べることも大切です。
- 天台宗の葬儀は「家族葬」で行えますか?
- 家族葬で行えます。家族葬は近親者のみで営む葬儀であり、儀式の形態を規定するものではありません。家族葬は弔問客に気を遣うことなく、落ち着いて故人とお別れをすることができます。また、一般的な葬儀に比べて規模が小さくなるため、費用を抑えられるメリットがあります。
- 天台宗の葬儀は「一日葬」で行えますか?
- 一日葬については、同じ天台宗であってもお寺ごとに考え方が異なるため、一日葬ができない場合もあります。どのような葬儀を行いたいかについては、家族や親族とよく話し合い、菩提寺や読経を依頼する僧侶、葬儀社に相談して決めましょう。

この記事の監修者
むすびす株式会社 代表取締役社長兼CEO 中川 貴之
大学卒業後、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの立ち上げに参画。2002年10月葬儀業界へ転進を図り、株式会社アーバンフューネスコーポレーション(現むすびす株式会社)を設立、代表取締役社長に就任。明海大学非常勤講師。講演・メディア出演多数。書籍出版