家族葬によくあるトラブルは?事例を交えながら対策を解説
家族葬は「小規模で静かに送れる」「準備や負担が軽い」といったイメージから選ばれる機会が増えています。しかし、実際の葬儀現場では、参列者の範囲や地域との関係、費用に関する判断など、さまざまな点でトラブルが発生することもあります。 この記事では、国の相談窓口に寄せられている事例や、実際に葬儀現場で起きたケースをもとに、家族葬で起こりがちなトラブルの傾向とその背景を整理し、防止のために準備すべきポイントを解説します。 家族葬を検討している方にとって、安心して送りの時間を迎えるための一助となる内容を目指しています。

家族葬でもトラブルは起こりうる
家族葬は、少人数で静かに見送ることができる葬儀形式として選ばれる傾向が強まっています。しかし、「小規模だから安心」「呼ぶ人が少ないから問題も少ない」といった期待とは裏腹に、実際には多くのトラブル事例が報告されています。
特に参列者の範囲が限られていることで、誰に訃報を伝えるかという判断がセンシティブになります。親戚間の関係性や地域社会とのつながりを軽視してしまうと、後から不満や批判が寄せられるケースもあります。また、準備の負担が軽くなると思っていたところ、意外と多くの判断を求められることに戸惑う方も少なくありません。
消費者庁や国民生活センターには、「費用が思っていたより高かった」「説明が足りず後でトラブルになった」といった相談が一定数寄せられています。小規模な葬儀であることが、必ずしもトラブル回避につながるとは限らないことが伺えます。
家族葬を選ぶ際には、「簡素=トラブルが少ない」というイメージを前提にせず、準備や関係者への配慮に十分な時間を割くことが大切です。
少人数だからこその「配慮不足」が原因になる
人数が少ないことで手間が減ると思われがちですが、少人数だからこそ一人ひとりへの配慮が重要になり、対応の抜け漏れがトラブルにつながる可能性があります。
たとえば、訃報を伝える範囲を限定した結果、「なぜ知らせてくれなかったのか」と不満を抱かれるケースがあります。特に親戚関係や、故人と関係の深かった知人・職場関係者などへの配慮を欠くと、葬儀後に気まずさを残す結果になることもあります。
加えて、小規模な葬儀は形式の自由度が高いため、地域の慣習や宗教的ルールとのギャップが発生しやすく、近隣からの指摘や誤解を招くこともあります。
こうした問題は、事前に誰に連絡を入れるか、何をどこまで伝えるか、どのような形式で進めるかを明確にしておくことで、ある程度防ぐことができます。
準備が簡単と思われやすいが、判断は複雑
家族葬は「負担が少なく簡単」というイメージが先行しがちですが、実際には多くの選択と判断が必要な形式です。
葬儀社に「最小限でお願いしたい」と伝えても、「最小限」の内容は人によって大きく異なり、打ち合わせ不足や誤解からトラブルに発展することもあります。香典を受け取るか否か、宗教儀礼の範囲、返礼品や会食の有無など、判断が曖昧なまま進むと、あとから「こんなはずではなかった」と感じる場面も出てきます。
さらに、親族間での意見の食い違いも発生しやすく、時間のない中で方向性を決めることが大きなストレスになります。形式が自由である分だけ、明確な指針をもって進めないと、かえって複雑化する傾向があります。
事前にどのような意思決定が必要になるかを把握し、関係者と十分に話し合っておくことが、家族葬を円滑に進めるうえでの重要なポイントです。
トラブル事例から見る、家族葬の落とし穴
家族葬におけるトラブルは、形式そのものが原因というよりも、準備不足や思い込み、そして説明の不足によって発生することが多いようです。特に費用、親族間の調整、ご近所づきあい、地域の風習といった面での認識差が、葬儀後の関係性に影響を及ぼす場合があります。
一見するとシンプルに見える家族葬ですが、実際には個々の判断や対応の積み重ねが問われる形式でもあります。「簡素である」ことを理由に確認や相談を省略すると、当事者間の認識にズレが生じやすく、後悔や誤解を招く要因となります。
以下では、実際に起こりやすい4つのトラブルをテーマ別に解説し、それぞれの背景と予防のヒントを整理していきます。
料金トラブル:思ったより高くなった
家族葬は「費用が安く済む」と思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。見積書を見たときは安く見えても、実際にかかる費用には会場使用料や返礼品、宗教者への謝礼などが含まれており、最終的に想定を大きく超えることもあります。
中には「プラン料金だけを見ていたが、オプションが加算されて倍近くになった」というケースも存在します。とくに火葬場の空き状況や式場の立地によっては、追加費用が避けられないこともあるため注意が必要です。
費用の内訳については、見積時点で「基本プランに何が含まれているか」「追加費用が発生する可能性がある場面はどこか」を明確にしておくことが重要です。金額の大小ではなく、説明の透明性と理解度がトラブル回避につながります。
親族トラブル:誰を呼ぶかで揉めた
「家族葬だから身内だけ」と決めていたつもりでも、その「家族」の範囲が人によって異なるため、呼ぶ・呼ばないの線引きがトラブルのもとになることがあります。
たとえば、いとこや義理の兄弟姉妹に連絡を入れなかったことが後から判明し、「なぜ知らせてくれなかったのか」と非難されることもあります。場合によっては、親族内での信頼関係が損なわれる結果につながることもあります。
訃報の伝達範囲は、事前に家族内でよく話し合い、意図と方針を共有しておくことが大切です。また、呼ばない方への配慮として、葬儀後に手紙や電話で報告するなどの補足的な対応も考慮すると良いでしょう。
近所トラブル:挨拶不足で批判を受けた
近年は都市部を中心に近所づきあいが希薄になりがちですが、それでも地域社会との関係が完全にゼロになるわけではありません。特に家族葬を自宅で行う場合や、斎場に近隣住民が関心を持つ環境では、「なぜ一言もなかったのか」と思われることもあります。
音や車の出入り、香典の取り扱い、宗教行事の有無などがきっかけで、葬儀後にご近所からクレームを受けることも少なくありません。親族だけのつもりで行っても、周囲には気づかれる場面があるからです。
こうした問題は、事前に「家族葬を行う予定です」とひとこと伝えておくことで回避できる場合が多くあります。近所への配慮は、葬儀そのもの以上に、今後の生活に影響を及ぼすポイントです。
地域風習トラブル:慣習を知らず反感を買った
地域によっては、香典返しや会食の有無、宗教儀礼の進め方などに独自の慣習が残っていることがあります。これを知らずに全国一律の形式で進めてしまうと、特に年配の親族や地域の長老から反感を買うこともあります。
「この地域では通夜振る舞いが当たり前」「白封筒ではなく黒白の水引を使うべきだった」など、形式的なルールであっても、その土地では大切にされている可能性があります。
また、地方では「組内」や「隣組」など、地域住民が協力して葬儀を支える文化が残っていることもあります。このような地域では、葬儀の案内や準備にあたって近隣住民への事前通知や挨拶が当然視される傾向があり、それを怠ると「礼を欠いた」と受け取られる場合があります。
葬儀社に依頼する際には、形式だけでなく「この地域では何が一般的なのか」といった背景まで相談しておくことが望ましいでしょう。形式の自由度が高い家族葬だからこそ、地域文化との調和を考慮する姿勢が必要です。
国民生活センターへの相談事例と傾向
家族葬をめぐるトラブルの一部は、消費生活相談のデータとしても報告されています。とくに国民生活センターには、葬儀サービスに関する苦情や相談が定期的に寄せられており、その中には家族葬に関係する事例も含まれます。
こうした相談は、個別の葬儀社とのトラブルに限らず、説明不足や認識の食い違いなど、葬儀形式の特性によって起こるケースも少なくありません。制度の不備ではなく、利用者の理解不足と事業者側の説明の不徹底が重なることで、問題が顕在化する傾向が見られます。
以下では、相談件数の推移とその内容に注目し、家族葬を検討する上で注意すべき傾向を解説します。
データにみる相談件数の推移
国民生活センターが公開する統計データによれば、葬儀サービスに関する相談件数は年々大きく変動しており、特に2010年代後半から2020年代初頭にかけて、簡素な葬儀形式の普及に伴う相談が増加傾向にあるとされています。
たとえば、2022年度における「葬儀・埋葬」に関する消費生活相談は全国でおよそ800件前後とされており、その中には「説明がなかった」「内容が違った」「高額な費用を請求された」といった声が一定数含まれます。とくに簡略な葬儀を希望する人が増える一方で、事前確認の不足がトラブルに直結していることがうかがえます。
相談件数は大規模な社会変化(例:コロナ禍)に伴い一時的に増減することがありますが、形式の変化に応じた新たなトラブルが常に発生していることには変わりありません。
相談の主な内容:説明不足と食い違い
寄せられる相談の大半は、「契約内容と実際の葬儀が異なる」「費用の内訳が不明」「説明が十分でなかった」といった内容に集中しています。これは家族葬に限った話ではないものの、自由度が高い家族葬では特に顕著に表れる傾向です。
例えば、「一日葬」として依頼したにもかかわらず、宗教儀礼が省略されていたことに不満を抱いた例や、「火葬だけのつもりだったのに式場費用が加算された」などの相談があります。これらは多くの場合、事前の説明が不十分だったり、利用者側が葬儀内容を誤解していたことに起因します。
葬儀という性質上、時間的猶予が少ない中で契約・決定が求められるため、内容の確認が形式的に終わってしまうことも珍しくありません。結果的に、葬儀後に「聞いていなかった」と感じる遺族が増えてしまうのです。
事業者側に明確な説明義務があるのはもちろんですが、利用者側も「確認すべき項目」「優先したい条件」などを事前に整理しておくことが、トラブル回避につながります。
現場で実際に起きた「お葬式のむすびす」事例
家族葬に関するトラブルは、理論上のリスクにとどまらず、実際の現場でも発生しています。ここでは「お葬式のむすびす」で実際に遭遇した事例をもとに、どのような背景でトラブルが起きたのか、またどのように対応・改善がなされたのかを紹介します。
【事例①】会社関係に知らせず弔問が殺到
現役の会社役員だった故人の家族葬において、訃報を会社関係に伝えなかったことで、葬儀後に弔問客が自宅に殺到するおそれがあった事例です。結果的にはプランナーの提案により、事前調整によって混乱を回避できました。
ご依頼主は神奈川県在住のご家族で、「静かに家族だけで見送りたい」という意向から、家族葬を希望されていました。しかし、当社のスタッフは故人が現役の会社役員であった点に着目し、会社関係者への訃報連絡を一切行わないことのリスクをご説明しました。
実際、こうしたケースでは、葬儀後に会社内で情報が広まり、自宅に弔問客が集中してしまうことがあります。結果としてご家族の精神的・物理的負担が増す恐れがあるため、スタッフは「最低限の連絡と会場での調整」をご提案しました。
最終的に、ご家族は会社関係者に時間帯を限定して参列を案内し、当日は想定より多くの方が式場に訪れたものの、一度にお別れの場を設けたことで、葬儀後の対応負担を大きく軽減できました。「最初は迷ったが、後悔しない形にできてよかった」との声もいただいています。
【事例②】地域のつながりを見落としてしまった
地域との関係性を十分に把握しないまま家族葬を行った結果、ご近所との摩擦が生じてしまった事例です。都市部に比べて地域社会のつながりが強い場所では、葬儀に関する共有や挨拶が重視される傾向があります。
この事例は、東京都内の下町で暮らしていた80代女性のご葬儀でした。故人は長年自治会や地域のサークル活動などに関わり、ご近所との交流も深い方でしたが、ご遺族は離れて暮らしていたため、そのような地域内の事情を十分に把握していませんでした。
ご家族の希望により、身内のみでの家族葬が進められましたが、葬儀後に実家の整理のため訪れた際、ご近所の方々から「なぜ知らせてくれなかったのか」と強い口調で非難される事態となりました。これは、地域における「参列することが礼儀である」という意識が共有されていたことによるものです。
この事例をきっかけに、当社では地域のつながりに関してご家族が把握していない可能性もあることを前提とし、地域性や風習に関する丁寧なヒアリングを標準化しました。特に都市部でも下町文化が残る地域では、より慎重な配慮が必要とされています。
【事例③】費用を抑えたつもりが逆に負担増
費用を抑えたいという意向から家族葬を選択したものの、結果的に自己負担が増えてしまった事例です。香典収入の有無や見積もり外の追加費用など、事前に把握しておくべき点が明らかになりました。
千葉県にお住まいのご家族は、「できるだけ費用をかけずに見送りたい」との希望でご相談に来られました。故人は90代で年金生活を送っており、喪主を務める娘様ご夫婦も経済的に余裕がない状況でした。そのため、最も簡素なプランを選び、親族への連絡も控える方針で進められていました。
当社スタッフはヒアリングの中で、費用面に不安を抱えての判断であることを確認したうえで、「家族葬だからといって必ずしも費用が安くなるわけではない」「香典収入がない場合、返礼品や人件費がすべて自己負担になる可能性がある」といった点を丁寧に説明しました。
最終的に、ご家族は親族の中でも特に親しい甥や姪にのみ訃報を伝えることを決断し、結果的に10名程度の参列者を迎えました。香典による収入があったことで返礼品や会場費用の一部を補うことができ、全体としての持ち出し額を抑えることができました。
費用の抑制だけを目的に家族葬を選択する場合でも、香典の扱いやプラン内容を含めた収支全体の構造を把握することが重要であることが、この事例から読み取れます。
【事例④】地域風習を知らずトラブルに
地域特有の風習に配慮しないまま家族葬を進めたことで、周囲との関係に支障をきたすおそれがあった事例です。とくに自宅葬では、その土地に根付いた習慣や期待に留意する必要があります。
この事例は、埼玉県の住宅地にお住まいのご家族からのご依頼でした。故人は70代の男性で、「静かに、家族だけで見送りたい」との意向から、自宅での家族葬を希望されていました。当初、ご近所への挨拶や通知は一切行わない予定で進められていました。
しかし、担当スタッフは、その地域に「門送り」と呼ばれる風習が残っていることを把握しており、ご家族に説明を行いました。門送りとは、出棺時に近隣住民が家の前に立ち並び、静かに手を合わせて故人を見送るという習慣です。また、慣例として遺族側から簡易な返礼(500〜1,000円程度)を配ることも一般的です。
結果的に、ご家族は地域の風習に沿って出棺の時間帯を調整し、簡単な返礼品も準備。式当日には近隣住民が自然と集まり、和やかな雰囲気の中で門送りが行われました。葬儀後も近所付き合いに支障が出ることなく、スムーズな形で終えることができました。
家族葬では形式を自由に決められる反面、地域性や風習に対する理解が欠けると、予期せぬ摩擦が生じることがあります。とくに自宅葬を選択する際は、地域文化を踏まえた対応が不可欠です。
家族葬のトラブルを防ぐために準備すべきこと
家族葬のトラブルは、その多くが「事前の認識合わせ」と「配慮不足」に起因しています。形式の自由度が高い分、判断が属人的になりやすく、後から「そうではなかった」「聞いていない」といった行き違いを生みやすいのが実情です。
こうした問題を未然に防ぐには、誰を呼ぶのか・香典や返礼の取り扱い・費用面の確認など、基本的なポイントをあらかじめ整理し、関係者間で共通認識を持つことが欠かせません。
以下では、家族葬を円滑に進めるために確認しておくべき3つの具体的な視点について解説します。
誰を呼ぶか・呼ばないかの伝え方
招く範囲の決定は、家族葬の準備において最も繊細な判断のひとつです。親族の中でも「呼ばれるべき」と考える人の範囲は人によって異なるため、誰を呼ぶかを家族内で丁寧に話し合い、線引きの意図を明確にしておくことが重要です。
呼ばない方への対応も大切です。訃報を伝えないのか、後日報告するのか、香典の受け取りはどうするのかなど、方針を決めておくことで、予期せぬ非難や関係の悪化を防ぐことができます。
また、「この方針で進める」と決めたら、他の親族や関係者にも共有し、意思決定に一貫性を持たせることが信頼関係を維持するうえでも効果的です。
香典・返礼・風習の確認ポイント
家族葬では、香典や返礼品、宗教儀礼の有無などを自由に決められますが、それがかえって誤解のもとになることもあります。「香典を辞退したつもりが持参された」「返礼品が地域の慣習と合わず失礼に見えた」といったケースも少なくありません。
地域の風習や親族の考え方に配慮しつつ、何を省略するのか、何を残すのかを明確にしておくと安心です。とくに高齢の親族が多い場合は、過去の葬儀事例を参考にしながら、一般的な形式との違いを丁寧に伝えることが大切です。
葬儀社を選ぶ際には、地域の風習に精通しているか、柔軟に対応できるかを確認しておくと、こうした誤解を避けやすくなります。
費用構造とリスクを事前に理解する
「家族葬=安い」という印象だけでプランを選ぶと、思わぬ追加費用が発生し、トラブルの元になります。たとえば、祭壇の変更、会食の追加、返礼品のランク変更などで、想定を超える支出となるケースが見られます。
また、安価なプランの中には、必要最低限しか含まれていない場合もあります。その場合、後からオプションとして必要なものを個別に手配しなければならず、時間と労力がかかる点も見落とせません。
さらに、オプションの追加によって再見積もりや打ち合わせが必要となる場合、葬儀直前の限られた時間の中で段取りを変更しなければならず、精神的・時間的な負担が大きくなる可能性もあります。
見積もり時には、「何が含まれているのか」「どこで追加が必要になる可能性があるのか」といったポイントを明確にし、家族間でもその内容を共有しておくことが重要です。価格だけでなく、全体像を理解することが、後悔のない選択につながります。
家族葬トラブルのよくある質問
家族葬にしたのに、思っていたより費用がかかったのはなぜですか?
家族だけで見送ったのに、あとから親戚に非難されました。どうすればよかったのでしょうか?
香典を辞退したつもりが、当日持参された場合どう対応すればよいですか?
地域の風習を知らずにトラブルになったことがあります。事前に確認するにはどうすればよいですか?
家族葬では事前の準備が少なくて済むと聞きましたが本当ですか?

この記事の監修者
むすびす株式会社 代表取締役社長兼CEO 中川 貴之
大学卒業後、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの立ち上げに参画。2002年10月葬儀業界へ転進を図り、株式会社アーバンフューネスコーポレーション(現むすびす株式会社)を設立、代表取締役社長に就任。明海大学非常勤講師。講演・メディア出演多数。書籍出版