家族のみの場合はどうすればいい?自宅葬を葬儀社に依頼するときの範囲を解説
自宅葬は、家族だけで行うことも可能です。
通夜や告別式を自宅で執り行うこの形式は、形式にとらわれず、家族の意向を反映しやすいという特徴があります。
ただし、実際に準備を進める中では、「どの範囲まで葬儀社に任せられるのか」「何を家族で担うべきか」といった実務的な疑問や負担も出てきます。
本記事では、家族葬を自宅で行うケースを前提に、葬儀社に依頼できる範囲と、家族が担うべき役割について整理し、無理のない準備と判断ができるよう具体的に解説していきます。
自宅葬は家族だけでも行えるが、すべてを自力で進めるのは現実的ではない
自宅葬は、人数の制限がないため、家族だけで執り行うことも可能です。
ただし、葬儀全体の準備・進行を自力で完結させるのは現実的に難しく、葬儀社の支援を前提に計画を立てることが現実的な選択肢といえます。
自宅葬においては、故人の搬送や安置、死亡届の提出、火葬許可の取得、火葬場の予約といった手続きが発生します。これらの業務は、専門的な知識や資格、設備を必要とするため、家族のみで対応するのは負担が大きく、対応ミスのリスクもあります。
また、葬儀の実施には、祭壇や棺、骨壷、焼香具などの準備も必要です。こうした備品の調達や設営、式の進行などを含めると、家族だけで一貫して進めるのは時間的・体力的にも負担が大きくなる傾向があります。
そのため、自宅葬を家族のみで行いたい場合でも、葬儀全体を無理なく進めるには、要所を葬儀社に任せながら、家族が担う部分を明確にすることが重要です。どこを依頼し、どこを自力で対応するかを判断するためには、まず葬儀社に依頼できる具体的な範囲を知ることが出発点になります。
家族葬と自宅葬の違いは「会場の形式」と「参列する人の範囲」にある
家族葬は「親しい人だけで行う小規模葬儀」であり、自宅葬はその会場を自宅にする形式の一種です。ここでは、家族のみで自宅葬を行うケースを前提として解説を進めます。
両者は混同されやすいものの、「誰を招くか」と「どこで行うか」という点で明確な違いがあります。家族葬は、親族やごく親しい友人だけを招いて行う葬儀であり、会場は斎場・葬儀会館・自宅など自由に選べます。
一方の自宅葬は、会場を自宅に設定する葬儀の総称であり、参列者の範囲について明確な制限はありません。家族葬のように小規模で行うこともあれば、親戚や近隣を含めた一般的な葬儀として行うこともあります。
つまり、「家族のみで自宅葬を行う」という形は、家族葬という葬儀形式を自宅という場所で実施する組み合わせといえます。この違いを把握しておくことで、葬儀の全体像や依頼の判断もしやすくなります。
すべてを家族で行うことが難しい主な理由
自宅葬は家族のみで執り行うことも可能ですが、葬儀の全工程をすべて自力で行うのは現実的に難しいといえます。背景には、専門性・制度・物理的負担といった複数の要素が関係しています。
葬儀には段取りの整備や行政手続き、衛生管理など、家族だけでは対応しきれない業務が含まれます。特に以下のような点は、専門の知識や設備、第三者との連携が求められる場面です。
- ご遺体の搬送・保全には資格や設備が必要
- 死亡届や火葬の手続きが煩雑で時間がかかる
- 葬儀設営や進行を家族で担うには準備負担が大きい
こうした要素を家族だけで進めようとすると、手続きの不備や体力的負担、精神的な余裕の欠如といった問題が生じる可能性があります。
自宅葬を無理なく行うには、家族で対応できることと、葬儀社に任せるべき部分を適切に切り分ける視点が必要です。
家族で対応できることも一部ある
自宅葬においては、すべてを葬儀社に任せる必要はありません。形式や規模によっては、家族で準備・対応できることも一部あります。
特に小規模で身内のみの葬儀であれば、費用や手間を抑える意味でも、家族が担える役割を明確にしておくことで、柔軟な進行が可能になります。
- 焼香具や供花の用意
- 遺影写真の準備
- 挨拶や連絡など人的な対応
これらは事前に手配がしやすく、専門的な技術や設備を必要としないため、家族でも対応しやすい範囲といえます。たとえば、遺影写真は家庭用プリンターでも十分に用意でき、焼香具も簡易なもので代用が可能です。
ただし、家族で対応する場合でも、当日の進行や準備に支障が出ないよう、事前に役割分担を明確にし、必要に応じて葬儀社に補助を求められるような体制を整えておくことが大切です。
自宅葬において、葬儀社にはほとんどの工程を依頼できる
家族葬としての自宅葬でも、葬儀社に依頼できる範囲は広く、式の進行から火葬まで包括的に任せることが可能です。
自宅という場所で葬儀を行う場合でも、葬儀社が対応できる内容に大きな制限はありません。会場が自宅であっても、準備や手配、進行の支援を含めて、一般の式場と同様のサービスを受けることができます。
たとえば、ご遺体の搬送や安置、役所への死亡届提出、火葬許可の取得、火葬場の予約、宗教者の手配、式の進行、返礼品や料理の準備など、工程のほとんどは葬儀社のサポート範囲に含まれます。さらに、住宅環境に応じた動線の整備や備品の設置なども相談に応じてもらえることが一般的です。
自宅葬を検討する際には、まず「どこまでを依頼するか」ではなく、「基本的にはすべて依頼できる」という前提で考えると、判断がしやすくなります。そのうえで、家族の希望や状況に応じて、自分たちで担いたい部分を調整していく方法が現実的です。
葬儀社に依頼できる内容一覧(比較表)
自宅葬を行う場合でも、葬儀社に依頼できる工程は幅広く、ほとんどの準備や手続きを任せることが可能です。以下の表に、主要な工程ごとの依頼内容と、家族のみで対応できるかどうかを整理しています。
| 工程 | 依頼内容の例 | 家族のみでの対応可否 |
|---|---|---|
| ご遺体の搬送・安置 | 寝台車・保冷・安置設備 | 不可 |
| 死亡届・火葬手続き | 役所代行・火葬場予約 | 可能だが非推奨 |
| 葬儀設営・進行 | 祭壇・司会・宗教者手配 | 一部可(要経験) |
| 納棺・出棺 | 棺準備・搬送・火葬場手配 | 不可 |
| 返礼品・料理 | 通夜ぶるまい・返礼品一式 | 可(自力手配も可能) |
葬儀の工程には、衛生管理・行政手続き・設備運用などの専門的な要素が含まれるため、多くの部分は葬儀社に任せるのが現実的です。一方で、料理や返礼品などは自分たちで手配することも可能で、希望に応じて柔軟に選択できます。
工程ごとに「依頼すべき項目」と「自力で対応可能な項目」を整理しておくと、必要な準備と予算の見通しが立てやすくなります。特に初めて葬儀を行う場合は、依頼できる範囲を広めにとらえたうえで、相談を通じて調整していくのが安心です。
家族が必ず関わる部分とは
自宅葬において多くの工程は葬儀社に依頼できますが、一部は家族が主体的に対応する必要があります。特に、葬儀の方針を決めるうえで避けて通れない事項がいくつかあります。
たとえば、誰を参列対象とするか、どのような形式で進めるかといった基本方針は、家族の判断なしには決まりません。また、宗教者との関係性や家の事情など、外部には踏み込みづらい領域もあります。
- 宗教者との事前連絡
- 参列範囲の決定と連絡
- 式中の代表挨拶や立ち会い
これらは葬儀全体の方向性や進行に関わる重要な要素であり、実際の施行を葬儀社に依頼する場合でも、事前の意思決定や連携が不可欠です。特に宗教儀式を行う場合は、菩提寺などとの調整が必要となるケースもあるため注意が必要です。
葬儀を家族で進めるにあたっては、「任せる部分」だけでなく「自分たちが担う部分」にも意識を向けておくことで、当日の混乱を防ぎ、納得のいく見送りにつながります。
自分たちで準備できること・希望によって任せられること
自宅葬では、供花や食事、遺影写真の準備など、一部の内容については家族で対応することも、葬儀社に依頼することも可能です。状況に応じて柔軟に選択できる点が、自宅葬の特長でもあります。
たとえば、近所の花屋で供花を手配したり、家庭用プリンターで遺影写真を印刷したりすることは十分に可能です。また、通夜ぶるまいや精進落としなどの料理を仕出し店に直接依頼したり、手作りで対応する家庭もあります。
一方で、時間的な余裕がない、人数が多い、高齢者が多く準備が難しいといった事情がある場合には、こうした項目も葬儀社に任せることで負担を軽減できます。
- 供花や献花の手配(自力・花屋経由・葬儀社経由)
- 遺影写真の用意(家庭内・写真店・葬儀社)
- 通夜・葬儀後の食事(仕出し・持ち寄り・依頼)
- 式中の挨拶や進行補助(家族対応・代行依頼)
自宅葬は画一的な形式にとらわれない分、家族の希望や状況に応じて対応範囲を調整できる柔軟性があります。事前に「自分たちでできること」と「任せたいこと」を明確にしておくと、準備や費用の見通しが立ちやすくなります。
どこまで依頼するかは、家族の体力・人数・意向に合わせて調整できる
自宅葬は形式に制約がないからこそ、家族の負担と納得感のバランスを意識して、依頼の範囲を柔軟に選ぶことが重要です。
一般的な式場での葬儀に比べて、自宅葬は進行内容や役割分担の自由度が高く、誰がどの部分を担うかを家族の事情に応じて調整しやすいのが特徴です。たとえば、少人数で対応できる家庭であれば一部を自力で進めることも可能ですし、体力的・時間的に難しければ全体を葬儀社に任せる選択も取れます。
自宅という慣れた空間を使う一方で、準備・設営・動線確保・片付けなどに伴う実務的負担は無視できません。また、高齢の親族が多い場合や、小さなお子さんがいる家庭では、当日の進行を家族だけで担うことが精神的にも大きな負担になる可能性があります。
葬儀を行ううえで最も重視すべきは、「誰が何をして、どこに心を向けるか」というバランスです。形式や慣習にとらわれすぎず、現実的な対応可能性と気持ちの整理を両立できるよう、無理のない依頼範囲を事前に見極めておくことが、後悔のない選択につながります。
最小限の依頼で行うモデルケース(例)
ご遺体の搬送から火葬までを葬儀社に任せ、それ以外の準備や式は家族が担うという進め方が、自宅葬ではもっとも簡素な依頼モデルです。
この形式は、最低限の外部支援にとどめつつ、故人との時間を静かに過ごしたいと考える家庭に適しています。葬儀の儀式そのものは行わず、焼香や読経などを家族のみで進めることで、準備の負担を抑えながら、想いのこもった見送りが可能になります。
- 葬儀社によるご遺体の搬送・安置・納棺
- 死亡届の提出・火葬許可申請・火葬場予約の代行
- 火葬当日の搬送と火葬立ち会い
- 自宅では家族のみで焼香・読経・挨拶を行う
- 供花・料理・遺影写真などは家族で手配
この場合でも、火葬に関する手続きと搬送・立ち会いは制度上専門業者に任せる必要があり、葬儀社との連携は不可欠です。また、地域によっては火葬場の予約が葬儀業者を通じてしかできない場合もあるため、家族のみで進行するのは現実的ではありません。
可能な限りシンプルに進めつつ、制度上必要な対応をきちんと行うことで、安心かつ適切な葬儀を実現できます。準備の余力や希望に応じて、このような最低限モデルも検討の選択肢となるでしょう。
進行・設営まで依頼するモデルケース(例)
自宅葬でも、きちんと祭壇を設けて宗教的な儀礼を行いたい場合や、進行を滞りなく進めたい場合には、設営・進行までを葬儀社に依頼する方法が適しています。
このモデルでは、会場となる自宅に祭壇や椅子を整え、宗教者とのやり取りや式の進行も葬儀社が主導します。葬儀の形式に一定の整えを持たせたいという希望や、儀式面での不安を解消したいときに選ばれることが多い形です。
- ご遺体の搬送・安置・納棺の基本的な工程
- 自宅への祭壇設営、導線整理、備品配置
- 宗教者の手配・事前連絡・日程調整
- 式中の司会進行、焼香・読経の流れ管理
- 式後の片付けと備品撤収
宗教儀礼や見送り方に一定の形式を持たせたい場合、自力で整えるには知識・準備・人手が必要になります。葬儀社が設営・進行を担うことで、遺族は気持ちの整理に集中でき、混乱や手配ミスのリスクも減ります。
自宅という個別性の高い空間でも、専門家の支援を取り入れることで公的な整いを持たせられるのが、このモデルの強みです。精神的にも形式的にも「きちんと送りたい」と考える家族にとって、負担と安心のバランスが取りやすい選択肢といえます。
迷うときは事前見積もり・相談で調整可能
どこまでを家族で担い、どこからを葬儀社に依頼すべきか迷う場合は、遠慮せずに事前相談や見積もりを依頼することが重要です。
自宅葬は形式が自由な分、対応の範囲を自己判断だけで決めるのが難しいこともあります。「何を依頼すべきか」「自分たちでできることはどこまでか」を事前に葬儀社に確認することで、無理のない分担が可能になります。
多くの葬儀社では、自宅の間取りや希望内容を踏まえて必要なサービスの提案を行っており、費用の内訳や対応可能な範囲も事前に明示されます。搬送・火葬・設営などを一式で依頼するのか、一部のみを依頼するのかといった柔軟な調整にも対応しています。
「こんなこともお願いできますか」といった初歩的な相談であっても、問題なく応じてもらえるのが通常です。自宅という特殊な環境での葬儀だからこそ、早い段階で相談し、具体的なプランと費用感を把握しておくことが、安心と納得につながります。
家族葬としての自宅葬でも、ほとんどの工程は葬儀社に任せられる
自宅で家族だけの葬儀を行いたい場合でも、葬儀社に相談すれば、搬送・手続き・式進行など多くの工程を任せることができます。
「家族だけで静かに見送りたい」という希望を形にするうえで、自宅葬は有力な選択肢です。ただし、制度上・準備上の制約もあるため、すべてを自力でまかなうのは現実的ではありません。
実際には、火葬手続きや搬送、設営・進行といった重要な工程を葬儀社に依頼しつつ、供花や挨拶など一部の準備を家族で行うケースが多く見られます。事前の見積もりや相談によって、対応範囲や費用感を把握することも可能です。
無理をせず、必要な部分を柔軟に依頼しながら、自宅という空間を活かした「家族らしい見送りの形」を整えていくことが、納得感と負担軽減の両立につながります。
よくある質問
- 家族だけの自宅葬でも、必ず葬儀社に依頼しなければならないのでしょうか?
-
家族のみで自宅葬を行うこと自体は可能ですが、搬送や火葬に関する工程は制度上、葬儀社などの専門業者の関与が必要になります。
とくに火葬場の予約やご遺体の保全・搬送は一般家庭で対応できるものではなく、法的・衛生的な観点からも葬儀社の支援が前提となります。
無理にすべてを自力で行おうとせず、必要な部分は専門家に任せるのが現実的です。 - 自宅葬の形式でも、一般的な葬儀のように宗教者を呼んだ式は可能ですか?
-
可能です。自宅を会場にしても、宗教儀礼や祭壇設営などを整えた一般的な家族葬の形式にすることはできます。
宗教者との連絡や式の進行なども、希望に応じて葬儀社に任せることができます。
ただし、設営に必要なスペースや近隣への配慮は必要になるため、事前に自宅の状況を踏まえて相談することが大切です。 - 自宅葬で費用を抑えるには、どこを家族で対応すればよいのでしょうか?
- 供花の手配、料理の準備、遺影写真の用意、挨拶対応などは、家族で対応しやすい部分です。 一方で、ご遺体の搬送や火葬手続き、宗教者の手配などは専門的な対応が求められるため、葬儀社に任せるのが一般的です。 費用と労力のバランスを見ながら、必要な支援範囲を調整することが大切です。
- 自宅で葬儀を行う場合、近隣への配慮はどの程度必要ですか?
- 式の規模や宗教形式によっては、香や読経の音、来客の出入りなどで近隣に影響が出る可能性があります。 とくに集合住宅や住宅密集地では、事前に簡単な挨拶や通知を行っておくと安心です。 葬儀社によっては、近隣説明のアドバイスや配慮すべき点についても対応してくれる場合があります。
この記事の監修者
むすびす株式会社 代表取締役社長兼CEO 中川 貴之
大学卒業後、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの立ち上げに参画。2002年10月葬儀業界へ転進を図り、株式会社アーバンフューネスコーポレーション(現むすびす株式会社)を設立、代表取締役社長に就任。明海大学非常勤講師。講演・メディア出演多数。書籍出版