葬儀におけるトラブルの原因と対策を解説
葬儀の準備や実施の過程では発生するトラブルは、大きく「人」「物」「金銭」の三つに分類できます。いずれも事前の確認や準備次第で多くを回避できます。本稿では、それぞれの領域における具体的な事例と対策を整理します。

葬儀トラブルは一見多様に見えますが、理解しやすくするために「人・物・金銭」の三つに整理できます。実際の原因は人の対応や説明不足に行き着くことが多い一方、〈接遇や説明〉〈設備や備品〉〈見積や清算〉など、表れ方は異なります。本記事では、代表的な葬儀トラブルを事例ごとに整理し、その原因と具体的な回避の視点を解説します。 「思っていた内容と違った」「予想以上に費用がかかった」といった声は少なくありません。特に初めて葬儀を経験する遺族にとって、契約内容や地域の慣習は分かりにくいものです。事前に知識を持つことで、想定外の負担を避け、納得度の高い葬儀につなげることができます。
葬儀における人に関するトラブル
葬儀で起こるトラブルのうち、担当スタッフの態度や対応は影響が大きい領域です。身だしなみや言葉遣いの乱れ、感情的な言葉による費用のつり上げ、説明不足による認識の齟齬、火葬場・霊安所での不適切な取り扱いなど、いずれも「人」に起因します。背景には、教育体制や報酬制度の設計、現場の過密化といった構造的要因があります。契約前の確認を徹底し、誠実な対応が担保される葬儀社を選ぶことが、トラブルの予防につながります。
【人に関するトラブルの具体例】
- 葬儀スタッフの態度・礼儀に関するトラブル
- 葬儀費用がつり上げられるトラブル
- 祭壇の内容が打ち合わせと違うトラブル
- 火葬場・霊安所での不適切な対応や取り違えトラブル
葬儀スタッフの態度・礼儀に関するトラブル
葬儀の場では、担当スタッフの態度や所作が遺族の印象を大きく左右します。身だしなみが乱れていたり、言葉遣いが粗雑であったり、故人への礼を欠く対応は、不信感を招きやすい典型的な事例です。 このような対応は、単なる個人差ではなく、葬儀社全体の教育体制や接遇水準に由来する場合があります。特に低価格を強調する葬儀社では、人件費や研修にかける投資が抑えられる傾向があるため、スタッフの接遇品質に差が出る可能性があります。冠婚葬祭互助協会の調査でも、接遇に関する苦情は葬儀関連の相談の中で一定割合を占めており、制度的な課題といえます。
遺族にとっては一度限りの儀式であるため、このような対応を受けた場合の心理的負担は大きくなります。安心して任せられるかどうかを、費用だけでなく担当者の振る舞いからも見極めることが重要です。
葬儀トラブルに関する相談は、消費生活センターにも数多く寄せられています。大阪市消費者センターによれば、解約時の高額な手数料や追加請求に対する問い合わせが少なくありません。また、『女性自身』が報じたところでは、互助会の加入契約数は2,280万件以上にのぼり、全国で毎月10件前後の相談が絶えないという実態もあります。これらは制度や仕組み上の課題を示す一つの証左として、トラブルの背景理解に役立ちます。
解決策
スタッフに関するリスクを避けるには、契約前の打ち合わせで判断材料を丁寧に集めることが大切です。最初の挨拶や合掌といった基本的な所作、説明の分かりやすさや態度の丁寧さ、質問に対して誠実に答えているかなどを確認すると、接遇姿勢の水準を見極めやすくなります。違和感を覚えた場合は、その場で契約を急がず、他の葬儀社も含めて比較検討することが望まれます。こうした観察を通じて得られる印象は、その葬儀社の教育体制や組織全体の姿勢を判断する手掛かりになります。
後悔しないためにも「葬儀社を選ぶときのポイントを解説」をご覧ください。
葬儀費用がつり上げられるトラブル
打ち合わせの場で「故人様のために」「この規模がふさわしい」といった表現を繰り返され、当初の予定より高額なプランに誘導されるケースも報告されています。遺族の想いを尊重する言葉ではありますが、その一方で費用の増加につながりやすい点には注意が必要です。
背景には、業界全体に見られる報酬体系の仕組みがあります。多くの葬儀社では、担当者の評価や報酬が見積額に連動する「出来高制」を採用しており、結果として高額な提案になりやすい構造が存在します。仕入れや外注のコストは大きく変わらないため、低価格を入り口にした場合でも追加費用が発生するのは珍しくありません。
一方で、すべての葬儀社が同じではありません。中には「思い出を共有することに重点を置き、必要に応じて予算内で工夫をする」など、遺族の納得を重視した提案を心がける事業者も存在します。依頼者にとって大切なのは、提案の背景や目的を冷静に見極め、自分たちの希望や予算に合うかどうかを判断する姿勢です。
解決策
費用のつり上げを避けるには、見積もりの内訳を明確に確認することが欠かせません。各項目の根拠や追加費用の発生条件を説明してもらい、納得できるまで質問を重ねることが重要です。 また、その葬儀社が出来高制を採用しているかを事前に確認することも有効です。給与体系を把握することで、提案内容に営業的な意図が含まれているかを冷静に見極められます。特に、見積もりの各項目を一つずつ確認し、不明瞭な点はその場で説明を求める姿勢が、不当な価格上昇を防ぐために有効です。
葬儀費用の相場についての詳細は「平均相場はどれくらい?葬儀にかかる費用と内訳を解説」をご覧ください。
祭壇の内容が打ち合わせと違うトラブル
「できるだけ費用を抑えたい」と依頼者が伝えた結果、想像以上に簡素な祭壇が用意され、当日に花を追加したいと申し出ても対応できなかったという事例があります。葬儀の準備には花材の仕入れや施工の工程が関わるため、直前の変更は物理的に不可能な場合が多いのが実情です。 こうした不一致の根本には、依頼者と葬儀社の間でイメージが十分に共有されていなかったことがあります。依頼者が「費用を抑える」と伝えた場合でも、その解釈は葬儀社によって異なり、結果的に依頼者の期待とは異なる内容が形になる可能性があります。
解決策
事前に祭壇や装飾の具体的なイメージを共有し、写真や図面を用いて確認しておくことが有効です。花の種類やボリューム、色合いなどを明示した資料を基に合意を形成することで、当日の不満を防ぐことができます。 また、変更可能な期限を必ず確認し、その範囲内で修正依頼を行うことが望まれます。費用面の希望を伝えるだけでなく、花の種類やボリューム、色合いなど、仕上がりのイメージを具体的に示すことが重要です。抽象的な依頼では誤解が生じやすいため、視覚的な資料を用いて合意形成を行うことが、後悔を防ぐ有効な手段となります。
火葬場・霊安所での不適切な対応や取り違えトラブル
火葬場で棺が流れ作業のように扱われたり、霊安所で故人と異なる名前の札が置かれていたりする事例が報告されています。こうした状況は遺族に強い不信感や憤りを与え、時には重大な取り違えにつながる危険性があります。 背景には、死亡者数の増加による現場の業務過密や、従業者の慣れによる緊張感の低下があります。実際に大手葬儀社であってもご遺体の取り違えが発生した事例があり、規模や知名度が必ずしも安全性を保証するものではありません。
解決策
葬儀の準備や当日は、遺族にとって気持ちも体力も大きな負担を伴います。その中で全ての管理体制を自分で確認するのは現実的ではありません。だからこそ、無理のない範囲で担当者に質問するだけでも十分です。
例えば、「棺や遺体には識別札を付けていますか」「確認はどのように行っていますか」といった基本的なことを尋ねれば、その葬儀社がどのように配慮しているかが伝わります。さらに、不安を感じたときには「立ち会うことはできますか」と確認するだけでも安心感につながります。
大切なのは、全てを自分で背負うのではなく、担当者に委ねつつ、気になる部分を一言聞いておく姿勢です。それだけで不安を和らげることができ、安心して故人との時間に集中できる環境を整えることができます。
葬儀における物に関するトラブル
祭壇や花、式場設備、霊安所の環境など、葬儀に用いられる「物」は遺族の印象を左右する重要な要素です。打ち合わせ時の説明や写真と実際の内容が異なった場合や、施設の管理が行き届いていない場合には、不信感や不満につながります。背景には葬儀社の規模や仕組みの違いがあり、小規模経営や互助会系列の事業者で発生する傾向が見られます。依頼者が事前に現地確認や仕様の確認を行うことで、こうしたトラブルを未然に防ぐことが可能です。
【物に関するトラブルの具体例】
- 祭壇の花が造花だった
- 写真と実際の式場が違っていた
- 式場が狭く待合場所も不足していた
- 霊安所の環境や棺の扱いが不適切だった
祭壇の花が造花だった
打ち合わせで依頼した内容と異なり、祭壇に造花が使用されるケースがあります。生花の鮮やかさや自然さを期待していた遺族には、その差異は当日の心理的負担につながりやすく、信頼関係の毀損を招く典型的な事例です。
背景には、葬儀社の運営構造が関係しています。特に互助会系列では、自社会館で常設された造花を使い、パッケージ料金に含めるモデルが多く見られます。これは花材の追加手配や管理のコストを抑える運営上の事情ですが、装花の選択肢に制限がある構造的制約とも言えます。
国民生活センターによれば「葬儀サービス」に関する相談は、2024年度には978件に達し、ここ10年以上で最多を記録しました。情報不足や選択肢の限定がトラブルを生みやすい現状を裏付けています。
解決策
祭壇の花材については、「生花か造花か」を前提に確認し、見積書や契約書に明示してもらうことが基本です。可能であれば現物サンプルや実際に使用される花材の写真を確認し、質感や色あいを目視で納得できるまでチェックします。
また、式場見学が難しい場合には、直近でその会場を使用した遺族の体験談や口コミを参考とすることも有効です。同様の希望を持つ他の利用者の感想は、公式写真ではわからない「現場の雰囲気」を伝えてくれる可能性があります。こうした複数ルートでの確認を重ねることで、不一致を未然に防ぎ、安心できる準備につなげられます。
写真と実際の式場が違っていた
打ち合わせで提示された写真が新築時や改装直後のものであり、実際に利用した際には壁紙の剥がれやシミが目立つなど、印象が大きく異なるケースがあります。こうした不一致は、施設の老朽化や管理不足に加え、宣材写真の更新が遅れがちであることや、修繕に十分なコストを割けない運営体制にも起因します。契約時点で依頼者が現状を把握できないまま進むと、式当日に落胆や不信感につながりやすい典型的な事例です。
解決策
式場を選ぶ際には、可能であれば現地見学を行い、清掃状態や備品の管理状況まで直接確認することが望まれます。現地確認が難しい場合には、複数の式場を比較することでリスクを軽減できます。写真だけに依存せず、多面的に情報を収集することが、当日の不満を防ぐ有効な手段となります。
式場が狭く待合場所も不足していた
事前に参列人数を伝えていたにもかかわらず、実際には会場が狭く、待合スペースも不足していたという事例があります。急な訃報では参列希望者が予想以上に増えることがあり、また地域性や故人の社会的立場によって参列規模が変動する場合もあります。葬儀社が十分に調整を行わないまま式場を決定すると、結果的に参列者が窮屈な環境に置かれ、遺族が不便を強いたことへの心理的負担を抱きやすくなります。
解決策
参列者数は余裕を持って見積もり、式場の収容人数や待合スペースを事前に確認することが必要です。予想より参列者が増える可能性を想定し、控室や別室を待合として転用できるか、モニター中継で対応可能かといった代替手段を確認しておくと安心です。会場選びの際には、単なる座席数だけでなく、動線や付帯設備の使い勝手まで含めて検討することが有効です。
霊安所の環境や棺の扱いが不適切だった
霊安所が簡素な造りで倉庫に近い印象を与えたり、棺が十分な配慮なく扱われていると感じられるケースが報告されています。背景には、死亡者数の増加による施設不足や、職員体制の限界から管理や教育が行き届かない状況があります。こうした環境は遺族に強い不快感や不信感をもたらし、葬儀全体の印象を損ねる要因となります。
解決策
霊安所を利用する場合は、事前に環境を確認し、清潔さやプライバシーへの配慮が整っているかを基準に判断することが重要です。見学が難しい場合でも、写真や設備の説明を求め、納得できる環境かどうかを確認してから依頼するのが望まれます。また、自宅安置や民間の安置施設と比較検討することで、より安心できる選択肢を見つけられる可能性があります。
葬儀における金銭面のトラブル
葬儀でのトラブルは「費用」に関するものが特に多く、見積もりの不透明さや追加費用、僧侶への謝礼金、遺産の扱いなど幅広い形で発生します。突然の支出となるため遺族にとって負担が大きく、情報不足や確認不足が不満や誤解を招きやすい分野です。背景には、広告と実際の費用の乖離、宗教儀礼に伴う慣習の複雑さ、金融機関や相続制度の仕組みが関係しています。
【金銭面に関するトラブルの具体例】
- 葬儀の見積もりトラブル
- 葬儀のお布施トラブル
- 故人の口座凍結トラブル
- 相続・遺産分割トラブル
葬儀の見積もりトラブル|概算費用で高額請求されたケース
葬儀の見積もりで「概算」と表記された項目が十分に説明されず、葬儀後の清算段階で想定以上の高額請求につながる事例があります。依頼者にとっては事前に理解できなかった費用が加算されるため、不信感や不満の大きな原因になります。
背景には、葬儀費用の内訳に含まれる「変動項目」の存在があります。飲食接待費や返礼品、花の追加などは参列者数や遺族の希望によって変動しやすく、あらかじめ確定額を提示するのが難しいのが実情です。そのため「概算」と記載されることが多いものの、広告で「追加料金不要」と表現されている場合でも、範囲外の注文を行えば費用が上乗せされる仕組みになっています。こうした説明不足がトラブルの温床となります。
解決策
見積もりの段階で「概算」とされている項目については、下限・上限の幅を必ず確認することが重要です。例えば「料理は一人あたり〇〇円で、人数によって変動する」「返礼品は△△円の品を基準に××名分を計算している」といった具体的な説明を受け、契約書や見積書に明記してもらうことが必要です。
また、広告で「追加料金不要」と記されている場合も、その金額に含まれる内容を細かく確認することが肝心です。特に、花のボリュームや料理の人数設定など自分たちの希望に見合っているかを把握することで、清算時の意図しない請求を防ぐことができます。疑問点が残る場合は必ず質問し、納得できる説明を得てから契約に進むことが望まれます。
より詳しくは「葬儀で「追加料金不要」は本当?追加料金が発生する条件を解説」をご覧ください。
葬儀のお布施トラブル|金額に相場がなく高額請求されることも
葬儀後に僧侶へ渡すお布施が、事前に想定していた金額を大きく上回り、遺族が戸惑う事例があります。「お気持ちで結構です」と伝えられて20万円を包んだところ、「少なすぎる」と指摘を受けたケースもあり、金額の基準が不明瞭であることが混乱を招いています。
背景には、お布施の金額に明確な相場が存在しないという点があります。宗派や地域性だけでなく、寺院や僧侶個人の方針によっても大きく異なるため、同じ条件でも金額が変動することがあります。さらに、お布施の一部は本山や宗派への上納金に充てられるため、僧侶にとっては生活費の重要な一部となっています。葬儀件数が減少傾向にある現在、収入の不安定さも金額に影響を与える要因と考えられます。
解決策
お布施に関しては、事前に目安となる金額を確認することが最も有効です。直接僧侶に尋ねることが難しい場合は、寺院の檀家総代や地域の葬儀社を通じて一般的な金額帯を教えてもらうと参考になります。また、全国的な傾向としては、葬儀一式で10万円から30万円程度を包むケースが多いとされていますが、地域や宗派によって差があるため一律には決められません。
納得できる金額設定を行うためには、見積もり段階で「お布施は別途必要か」「どの程度を想定すべきか」を必ず確認し、葬儀全体の費用計画に組み込んでおくことが大切です。もし不安が残る場合は、宗教者派遣サービスや全国的な葬儀相談窓口を活用し、透明性のある形で依頼するのも一つの方法です。
故人の口座凍結トラブル|葬儀費用を引き出せないリスク
葬儀費用や当面の生活資金を確保しようとして、故人の銀行口座から預金を引き出そうとした際、窓口で口座が凍結され、引き出せなかったという事例があります。突然の出費が重なる時期に資金を自由に使えないことは、遺族にとって大きな負担となります。
この背景には、金融機関の法律上の義務があります。死亡の事実が確認されると、銀行は相続人以外による不正な引き出しを防ぐために口座を凍結します。相続人間の権利関係を保護するための措置であり、銀行窓口では原則として解約や引き出しはできなくなります。ただし、キャッシュカードを利用したATMからの引き出しについては、金融機関が死亡を認識する前であれば一日上限額の範囲で利用できる場合があります。
解決策
故人の口座からの引き出しを計画する際には、まず相続手続きを理解しておくことが重要です。銀行口座を正式に解約するためには、戸籍謄本や遺産分割協議書などの書類が必要となり、手続きには時間を要します。そのため、葬儀費用を賄う資金は、故人の口座以外から準備しておくのが現実的です。
また、緊急的に資金が必要な場合は、金融機関の「相続預金仮払い制度」を利用できる場合があります。これは、相続人が一定の書類を提出すれば、法定相続分に応じて限度額の範囲で預金を引き出せる制度です。制度の利用可否や条件は金融機関ごとに異なるため、事前に確認しておくと安心です。予期せぬ口座凍結に備えるには、事前の生活資金確保と相続制度の理解が欠かせません。
相続・遺産分割トラブル|親族間の対立を防ぐために
故人の遺産をめぐり、親族間で意見が対立し、関係が悪化するケースは少なくありません。預貯金や不動産の分割方法、故人に借金があった場合の対応などが主な争点となり、感情的な対立に発展することもあります。結果として、葬儀の雰囲気に影響を及ぼすだけでなく、長期的な家庭不和に発展するリスクもあります。
背景には、相続制度の複雑さと、事前の準備不足があります。民法上、相続人はプラスの資産だけでなく、借金などマイナスの財産も引き継ぐことになります。相続放棄や限定承認といった制度は存在しますが、いずれも家庭裁判所での申立てが必要であり、期限も「相続開始から3か月以内」と短いため、手続きの遅れがトラブルにつながりやすいのです。また、遺言書が存在しない場合、財産の分割方法は相続人全員の合意が必要となり、合意形成が難航する事例も目立ちます。
解決策
相続トラブルを防ぐためには、まず故人が生前のうちに遺言書を準備しておくことが有効です。公正証書遺言を作成しておけば、法的効力が担保され、相続人間の不要な争いを減らす効果があります。また、財産に借金が含まれる可能性がある場合は、専門家(弁護士や司法書士)に早期に相談し、相続放棄や限定承認の可否を判断することが重要です。
遺族の立場では、相続手続きにあたり感情的な対立を避けるため、第三者である専門家を交えて話し合う方法も有効です。特に複数の不動産や多額の預金がある場合は、専門家の関与によって公平性を保ちやすくなります。事前の準備と専門的なサポートの活用が、親族間の対立を防ぎ、円滑な相続を実現する鍵となります。
その他のトラブル
葬儀に関するトラブルは「人」「物」「金銭」に大きく分類できますが、それ以外にも地域の風習や寺院との関係、葬儀の形式選択などに起因する問題が見られます。これらは一見細かな事項に思えますが、遺族や参列者の満足度を大きく左右し、後悔や不信感を残す要因となります。
【その他のトラブルの具体例】
- 葬儀内容を理解しないまま進めた結果の高額請求トラブル
- 地域風習を知らずに葬儀を行ったことで起きるトラブル
- 直葬を選んだことで親族・友人から非難を受けたトラブル
- 寺院との関係でお布施を高額請求されたトラブル
葬儀内容を理解しないまま進めた結果の高額請求トラブル
打ち合わせの内容を十分に理解しないまま葬儀を進めてしまうと、終了後に予想外の高額請求を受けるケースがあります。特に「追加料金一切不要」といった広告表現をそのまま信じた場合、基本プラン外の費用が含まれることに気付かず、結果として請求額が大きく膨らむことがあります。葬儀は短期間で準備が進むため、冷静な確認が不足しやすい点もリスク要因です。
背景には、葬儀社による説明不足だけでなく、依頼者自身が十分に質問できない状況もあります。非日常の場面で専門用語を多く含む説明を受けると、理解しきれないまま契約に進んでしまうことが少なくありません。さらに、広告の「定額プラン」や「追加不要」といった表現が、依頼者に誤解を与える要因になることもあります。
解決策
このようなトラブルを防ぐには、見積書の各項目を丁寧に確認し、「含まれるサービス」と「追加になる可能性があるサービス」を明確に区別することが欠かせません。疑問点があれば必ず質問し、口頭ではなく書面で回答を残すことが望ましい対応です。
また、複数の葬儀社から同じ条件で見積もりを取り、金額と内容を比較することも有効です。相場感を把握しておくことで、不当に高額な費用や不透明な請求に気付きやすくなります。契約前に「どの範囲までが定額で、どの範囲からが追加費用になるのか」を具体的に理解することが、安心して葬儀を任せるための基本的な備えです。
地域風習を知らずに葬儀を行ったことで起きるトラブル
地域ごとに異なる風習や慣習を十分に理解しないまま葬儀を進めた結果、近隣住民や親族から非難を受けるケースがあります。例えば香典返しの有無や通夜振る舞いの形式、供花の扱いなど、地域ごとに細かな違いが存在し、慣例から外れた対応は遺族の意図とは無関係に誤解や不快感を招きやすくなります。
背景には、都市部を中心に「形式にこだわらない葬儀」が増えている一方で、地域社会のつながりが強いエリアでは従来の習慣が重視され続けているというギャップがあります。さらに葬儀社の担当者が地域特有の慣習に精通していない場合、適切な助言が得られずトラブルにつながることがあります。
解決策
地域の風習に関するトラブルを避けるには、事前に親族や地域の長老格の人物に確認を取ることが有効です。加えて、葬儀社に「この地域ではどのような慣習がありますか」と具体的に質問し、必要な対応を洗い出しておくと安心です。
もし地域風習を重視した対応が難しい場合には、その理由を事前に説明し、理解を求める姿勢を持つことが望まれます。形式の違いが誤解を生まないよう、地域性を踏まえた調整を行うことが、円滑な葬儀進行と人間関係の維持につながります。
直葬を選んだことで親族・友人から非難を受けたトラブル
費用や手間を抑えるために直葬を選択したものの、後から親族や友人から「供養の心が足りない」と非難を受けるケースがあります。特に高齢の親族や地域社会との関わりが強い場合、儀礼を省いたことが「軽視」と受け止められやすい点が問題です。
背景には、近年の都市部を中心とした葬儀の簡素化の流れと、従来の儀式を重んじる価値観との間にある温度差があります。経済的・時間的な事情から直葬を選ぶ遺族は増えているものの、十分な説明や合意形成が行われないまま進めると、後々の人間関係に影響を及ぼす可能性があります。
解決策
直葬を選ぶ際には、事前に親族や関係者に意向を説明し、理解を得ておくことが重要です。経済的な事情や本人の遺志など、選択の理由を丁寧に伝えることで、誤解や不満を軽減できます。また、通夜や葬儀を行わない場合でも、お別れの会や後日の法要を設けるなど、代替的な形で供養の機会を確保することで、関係者の気持ちに配慮できます。
選択肢をただ押し通すのではなく、周囲の理解を得ながら柔軟に調整する姿勢が、直葬によるトラブルを回避するために不可欠です。
寺院との関係でお布施を高額請求されたトラブル
葬儀を行わず火葬だけを済ませた後、遺骨を寺院に納めに行った際に「供養が十分でない」と指摘され、高額なお布施を請求されるケースがあります。遺族にとっては想定外の出費となり、寺院との関係が悪化する原因にもなります。
背景には、お布施に明確な相場が存在しないという制度的な不透明さがあります。寺院側は宗派や本山への納付、僧侶自身の生活費を理由に一定額を求めることがあり、また住職の交代や地域慣習によって金額が変動することも珍しくありません。そのため、遺族の「お気持ちで結構」という言葉の受け止め方と、寺院の期待する金額との間に大きなギャップが生じやすいのです。
解決策
寺院との金銭的なトラブルを避けるためには、事前に目安となる金額を確認しておくことが有効です。直接尋ねづらい場合には、同じ寺院を利用した経験のある親族や地域住民に相談する、または宗派の本山や信頼できる窓口で一般的な水準を把握しておく方法があります。
さらに、直葬や簡素な形式を選ぶ場合には、その方針を寺院に事前に伝え、理解を得ておくことが重要です。後日の法要や寄進など、別の形で支援を行う選択肢を示すことで、寺院との関係を良好に保ちながら負担のバランスを取ることができます。

この記事の監修者
むすびす株式会社 代表取締役社長兼CEO 中川 貴之
大学卒業後、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの立ち上げに参画。2002年10月葬儀業界へ転進を図り、株式会社アーバンフューネスコーポレーション(現むすびす株式会社)を設立、代表取締役社長に就任。明海大学非常勤講師。講演・メディア出演多数。書籍出版